街に雪が降り積もるクリスマス・イブの夜、欧州での「ラストゲーム」を見事な勝利で飾った後、ピッチの中央には彼だけのために特別な舞台が用意された。シーズン途中、しかも外国人選手に対しては異例ともいえるセレモニー。誰ひとり席を立とうとしない厳寒のスタジアムで、彼は溢れる涙をぬぐう事なく10万の大観衆に向かって別れのメッセージを告げた・・・
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-- おかえりなさい!
ただいま・・・って言えばいいですかね(笑)。代表の試合でたびたび帰国していましたから「おかえり」と言われても何だかピンとこないです。
-- それにしてもカンプ・ノウでのセレモニーは感動的でした
もう恥ずかしいのでそれには触れないで下さい。実はクラブのスタッフからは何も伝えられていなかったのです。試合が終わって突然挨拶しろと言われた時は頭の中が真っ白になりました(苦笑)。無我夢中で喋ったので何も憶えていません。
-- 見事なカタルーニャ語だったと現地では絶賛されていたようです
それを聞いて安心しました。あの試合を観戦されていた原博実さん【註1:下記参照】にも誉めてもらえました。まぁ、原さんのスペイン語には遠く及ばないですけどね。
-- 『日本には僕が愛するもうひとつの青赤がある』という台詞も印象に残りました
事前の準備ができなかったので、知っている単語を精一杯並べました(苦笑)。青赤という台詞については、普段から思い続けている事が自然に口から出てきたのだと思います。【註2】
-- 久々に中村俊輔氏と会食されたそうですね
はい、相変わらず緊張してしまいましたけど・・・デビュー前からずっと目標にしてきた方ですからね。実際にプレースタイルを比較される事も多かったですし、それが自信となっていった部分もありました。欧州移籍後も「ナカムラに似たタイプ」と紹介されるだけで注目度が違ってくるのがわかりましたから。改めて偉大な選手だったのだなと思います。でも、今「目標の選手は?」と聞かれたらフジさん【註3】と答えるほかありませんよね(笑)。
-- 東京の選手に限らず誰もがそう言わざるを得ない空気ができあがっていますね
本当に尊敬の一言です。あのキャリアで年々サッカーが上手くなっているのですから。昨日久々に小平(クラブの練習グランド)でフジさんにお会いしたのですが10年前とまったく変わらない。とにかく公式戦でもう1ゴール決めるまでは絶対に引退しないって宣言していますからね。もう僕たちとは完全に別の生き物なのだと解釈するようにしています。そうでなければおかしいです、フジさんは(苦笑)。
-- 久々にJの舞台で戦うわけですが特に警戒するチームや選手はいますか?
ずいぶん長い間Jリーグからは遠ざかっていましたから、正直なところわかりません。他のチームについてはこれから時間をかけて分析していきたいと思っています。その前に自分自身をチームにフィットさせていかないといけませんから。スペインにいた頃から東京の試合はDVDで繰り返しチェックしていたので全体的なイメージはつかめているのですが・・・とにかく最近はドゥンガ【註4】が凄いですね。アレを見せられたら相手チーム云々言ってられませんよ。ここ数年間東京を引っ張ってきただけの風格が漂っていますね。一番警戒すべきは「怒れるドゥンガ」なのかも知れません。
-- それでは回答は「下田選手」という事でよろしいですね
そうしておいて下さい(笑)。僕はもちろん経験した事はないのですが本当に痛いらしいです、ドゥンガの蹴りは。とにかく彼の怒りを買わないように気合に満ちたプレーを心掛けたいと思っています。
-- 開幕戦の相手は東京ヴェルディと発表されました・・・日本復帰戦からいきなりダービーですね
日本最後の試合もヴェルディ戦でしたから、何か因縁めいたものを感じますね。
-- ヴェルディ戦といえば誰もが“伝説のヒール【註5】”を思い浮かべるのですが・・・
そうですか?僕はすっかり忘れていました(苦笑)。やはり僕の中ではいつになってもプロ初得点が最高の思い出になっています。あのゴールだけはまるで先週のゲームのように思い出す事ができますね。決まった瞬間スタジアムの雰囲気が一変した事にゾクリとさせられました。プロのサッカー選手としての喜びを教えてくれたあのゴールこそ僕の原点だと思っています。
-- 久々の「東京ダービー」についての抱負を聞かせて下さい
やはり同じ首都をホームとするライバルチームですから、自然と気合が入りますね。僕自身にとっても5年ぶりのダービーなのですが、よくよく考えてみたらチームにとっても5年ぶりですね(苦笑)。サポーターの皆さんも久々の対決を楽しみにしてくれていると思います。シーズンの最初からダービーに勝つ事でチームに勢いをつけたいですね。
-- 最後に新たなシーズンを迎えるにあたりサポーターの方々へ一言お願いします
「東京に帰ってくる」という約束が果たせて嬉しく思っています。新しい味の素スタジアムでプレーするのも本当に楽しみです。まずは小平でしっかり結果を残してポジションを確保する事を目標に頑張ります。3月の開幕戦で皆さんと再会できるのが待ち遠しいです!
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表彰式で「金メダル」を首にかける事を拒否したのは後にも先にも彼だけではないだろうか。それもサッカー選手なら誰もが夢みる最高の舞台においてである。FC東京の、いや日本サッカー界の悲願であるクラブW杯制覇。あと一歩まで迫ったアジア王者の夢を打ち砕いたのが他ならぬその左足であった事は時代が生み出した皮肉としか言いようがない。
あの夜、試合終了のホイッスルが鳴り響いたピッチの上で11人の失望と10人の歓喜が交差した。彼だけはそのどちらの輪にも加わる事なく静かに天を見上げていた。遂に到達した世界の頂点、しかし彼はその山の頂から早くも次の目標を見出していたのではないか。衝撃のJリーグ復帰があの瞬間に決意された事は想像に難くない。
サッカー選手として得るべき栄誉はすべて手にしたと評される。しかし彼は穏やかな笑みを浮かべながらそれを否定する。『トロフィーやリングの数ではない。一番大切なのは選手生活を終える時に愛するクラブに何を残せたのかという事』
この春、Jの舞台に“神の子”が帰還する。ファンの渇望感が臨界点に達している事は増設工事が済んだ味の素スタジアムの自由席(ゴール裏とバックスタンドエリアの計4万席)全席がSOCIO(年間チケット購入者)で占められるという事態からも明らかである。
栄光に彩られたサッカー人生の集大成ともいうべき目標に向かって東京の至宝が再び動き出す。
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【註1】原博実さん
サッカー解説者。FC東京監督時代の2004年にヤマザキナビスコカップを獲得。スペインサッカーへの信奉が深く、2010年には同国リーグでの指導者を志して単身海を渡る。その後セグンダ・ディビシオン(2部リーグ)のチームで指揮を取る一方「スペイン人より地元料理を美味そうに食べる日本人」としても名を馳せる。現在は堪能な語学力と豊かな跳躍力を武器にグルメレポーターの第一人者として日西両国で活躍中。好きな料理はバスク料理、好きなシステムは4バック。
【註2】青赤への深いこだわり
『ユニフォームの色が好きになれない』という理由で複数の移籍オファーを断ったという“噂”を彼本人は肯定も否定もしない。しかしこの色へのこだわりが我々の想像する以上に深く重い事だけは間違いない。日本代表においても『最近の代表は事実上FC東京の選手で占められているのだから、このユニフォームも青赤にしてほしい』という発言が物議を醸し出したのは記憶に新しい。
【註3】フジさん
もはや説明不要の「ミスター東京」藤山竜仁。年齢を重ねるごとに進化を続けてきた奇跡のセンターバックは45歳を迎えた昨シーズンも衰えとは無縁のプレーを披露。その存在に世界中のサッカー関係者とスポーツ生態学者の注目が集まる。最多試合出場、最高齢試合出場、最高齢アシスト、最高齢ベストイレブン、最高齢「ここが巧」など、数多くの記録を更新し続ける“Jのレジェンド”。
【註4】ドゥンガ
FC東京の「軍曹」下田光平の愛称。秋田商からプロ入り後数年間の下積みを経てその才能が開花、アジアを代表する超大型ボランチに成長した。試合出場時間が増えるにつれピッチ内外における人格の差異が注目を集める事に。そのキャプテンシーの強さはJリーグ史上屈指と評され、劣勢に立たされたチームを鼓舞するために味方選手の尻を思い切り蹴り上げる姿はFC東京の名物にもなっている。2014年シーズンには相手選手に対するファールを一度も犯さぬまま、味方選手への「暴行」のみで累積警告による出場停止処分を受けるという珍記録を樹立した。
【註5】伝説のヒール
欧州挑戦の壮行試合となった2013年の東京ダービーで見せた美技。この試合ループシュートだけでハットトリックを達成するという離れ業を演じた事はあまりに有名であるが、特にペナルティエリアの外でキーパーに背を向けた状態から左足の踵でボールを浮かせた3点目は、日本サッカー史に燦然と輝くビューティフルゴールとして語り継がれている。
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<PROFILE> 大竹洋平(おおたけようへい)
1989年5月2日生まれ(28歳)。埼玉県八潮市(現・大竹市)出身。
FC東京U-18時代にJユースサハラカップ2007、第15回Jリーグユース選手権大会で優勝。2008年3月8日ヴィッセル神戸戦でプロデビュー。名将・城福浩監督率いる「第一次FC東京黄金時代」の中心選手として同クラブの躍進を支えた。2013年9月にスイス・バーゼルへ期限付き移籍。同リーグにおける活躍が高く評価され、同年12月にスペイン・バルセロナへ電撃移籍。サッカーの枠を越えてスイス-スペイン両国の関係悪化を招くに至った「激動の移籍劇」を経てその名は世界中へ知れ渡る事となった(※1)。バルセロナ移籍後も不動のポジションを確保し同クラブのリーグ4連覇に貢献。2016-17年シーズンには日本人プレイヤー2人目(※2)となる欧州CL制覇を果たす。今シーズンよりFC東京へ復帰が決定。
(※1)味の素スタジアムの陸上トラック撤去およびサッカー専用場への改造工事費用はこの時にFC東京へ支払われた高額の移籍金が元手になっているといわれている
(※2)1人目は今野泰幸
「当時の活躍を伝える記事」

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