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2008年7月12日 (土)

He is Back

梅雨の合間を縫うように晴れた空。
突然差し込んできた陽光に驚きまぶしそうに目を細めるわが子に視線を落とす。どうやらこの子が「晴れ男」の称号を得る事は間違いなさそうだ…人生の節目節目で必ず好天に恵まれている。新生児の定期健診ですら人生の節目ととらえ、たまたま顔をのぞかせた太陽になにやら運命めいたメッセージを感受してしまう。こういった体質を一般的に「親馬鹿」と呼ぶ。

信濃町の駅前にある大学病院からタクシーに乗り込む。赤ん坊を抱えていると自動扉の開閉すら危険なものに思えてくるから不思議だ。15時から予定されているマタニティースクールの同窓会には十分に間に合う。お腹が大きかった頃から交流を深めてきた“同級生”と久々の再会。ほぼ同時期に出産を迎えた新米ママさんたちにとって、同じような悩みを抱える仲間とのコミュニティーは非常にありがたい情報交換の場となる。

タクシーは外苑東通りを少し進んでから右折し神宮外苑の周回道路に入った。このあたりから赤いレプリカを着用した人々の姿が目につきはじめる。それは6月の最終週、中断期間後の初戦を国立競技場で迎える御一行様であった。『少しスピードをあげて下さい。どうもこの付近は治安が悪いみたいだから』抱っこ紐から飛び出た可愛らしい足に触れながら僕は上機嫌で軽口をたたく。赤信号で停車したおかげで、否応にも視界に占める赤の割合が増してきた。
『そうですね…彼らは特に激しいですから』おっと、期待以上のレスポンス。ひょっとしてなかなかイケるクチですね?念のため運転席の彼が「赤」ではない事を確認してからサッカー談義へ移った。そしてこの運転手氏から、聖地・国立競技場にまつわる興味深い体験談を聞く事ができたのだった。

『今年に入ってからもありましたよ。大勢のサポーターに囲まれて大変な思いをしました』突然物騒な話をしはじめる。『怖いですけどこちらも仕事ですからね。商売道具に傷つけられようものなら飛び出して抵抗しますけど』まだまだ日本のサポーターは穏やかだと思いますねぇ、結局タクシーには触ってこなかったから。この運転手氏、ひょっとしたら以前はイタリアかアルゼンチンあたりでハンドルを握っていたのかもしれない。

『審判さんも大変な職業ですよね』
…!なるほど、そうだった。試合後に選手や監督が囲まれるなら、それはバスであるはずだ(バスであってもよろしくない事なのだが)。四方を“敵”に囲まれた国立競技場からタクシーで脱出を図らねばならなかった哀れな人とは、その試合を裁いたレフェリーだったのである。ではいったい誰がそのような恐怖体験に巻き込まれたのか…頭の中で「審判名簿」のページをめくる。悲しい事に次から次へと数多くの被害者候補が浮上した。言葉は悪いが囲まれ甲斐のある顔が続けざまに脳内でリストアップされてしまうのだ。

試合の開催時期など運転手氏の証言から勝手に分析した結果(分析するまでもなく)思い浮かんだのは他ならぬあの一戦であった。積もり積もった不審感が新たな不審感の呼び水となったあの日の騒動(ちなみに日本語として正しいのは「不信感」だ)。シーズン開幕を目前にして『今年もやりまっせ』と声高らかに主役宣言をした彼に向けて敗者のみならず勝者からも怒声が浴びせられた事は記憶に新し…くないほどシーズン開幕後にも様々なトラブルが発生している。
前門の鹿、後門の熊。タクシーの後部座席で身体を小さくしたまま“ほうほうの体”で聖地をあとにした逃亡者は、都会の雑踏にその身を隠しおおせた事を悟るや否や『ケッ』と意地悪そうにひと笑いしてから、大切に抱えていたボストンバッグからおもむろに札束を取り出しそれを数えはじめたのだった…『ケッケッケ』。

そんな僕の妄想を打ち消す運転手氏の証言。『家家…いえいえ、もうそれはそうとう凹んでいらっしゃいましたよ』ウーム、やはりそうなのか。職場でひと仕事片づけた直後に、否、仕事中から数万の人間に馬鹿だの無能だの(ときにはハゲだのデブだのインチキ飛騨牛だの中国産うなぎだの)と罵倒される。どれだけ努力しようとも高まる事のない顧客満足度。正常な感覚の持ち主ならば到底耐えられないタフな職業。皆さんどれだけツラの皮が厚いのかと日頃から疑問に感じていたものだが、やはり彼らも生身の人間。失敗してしまったら僕たちと同じように暗く深く落ち込んでしまうのだ。なんとも悲しい、なんとも寂しい。僕たちが愛するJリーグを支える重要な存在、余人をもって替えがたい重要なキャスト。やはり僕たちだってときにはレフェリーに声援を送るくらいの心持ちでサッカーに臨まなくてはならない。世界に誇れる激しくも楽しいスタジアムの空気を創りあげるために…。

そんな僕の感傷を打ち砕く運転手氏のさらなる証言。『もっともしばらくするとケロリと復活されていましたけどね』…ムム?『国際審判ともなると海外出張も多いみたいですね。マイルがたくさん貯まるのが役得だと自慢されちゃいましたよ』…ムムム?

わはは、やはり厚いじゃないか、ツラの皮。

表参道の交差点を抜けて骨董通りとのT字路に差しかかったあたりでタクシーを止める。やはり多少なりともマゾっ気がなければ務まらない仕事なのかもしれない。電子マネーでシャリーンと支払いを済ませる。それにしても便利な世の中になったものだ。オフサイドの判定やシミュレーションの有無など精緻な判断が求められるポイントだけでもレフェリングをデジタル化したら何が起きるのだろう。センサーやカメラとサッカーの融合は是か非か。そんな事を考えながら僕はタクシーを降りた。

※以上、あくまでタクシー運転手氏の営業トーク。どこまで真実かは定かではないので鵜呑みにだけはしないで頂きたい。

レフェリーでも成績次第ではJ2降格もあり得る事を知らしめてくれた彼。反省と精進を重ねていよいよ今節待望のJ1復帰を飾る(待望…なのである。ファンを大切にするJリーグが下した決断なのだからやはり何処かで誰かが歓迎しているのだろう。誰も望まないレフェリーを現場に戻すような愚行をリーグがはたらくとは思えない)。

審判不審の象徴とでもいうべき十字架を背負わされてしまったレフェリー。注目すべきは彼がどこのスタジアムで職場復帰するのかという事。そっとしておいてあげたいのも人情であるが、あそこまでセンセーショナルに報じられてしまった以上はそれなりの注目を集めるのは避けられないだろう。それでも僕たち、つまり日曜のナイトゲームで茨城県鹿嶋市に乗り込むFC東京のファンは、さすがに本件については当事者意識を捨てて外野から見守ればよいのではないかと予想する。復活の舞台に因縁浅からぬアントラーズの主催ゲームを選んでしまうほどリーグが話題性に飢えているとは思えないからだ(いや、やりかねないか?)。

幾度目かの汚名返上の機会。彼は胸の内にさまざまな思いを、そして胸ポケットの内にたくさんのカードを忍ばせてピッチに立つ。的確なレフェリングで円滑なゲームの進行に努めてほしい。ひと試合ひと試合、良い意味で存在感のない仕事を積み重ねる事で信頼のマイレージを貯めてくれる事を望む。

ゲームが始まれば笛を吹くのはレフェリーだけに許された特権。しかしファンやメディアにもゲーム前後に警笛を吹き鳴らす事が許されている事を肝に銘じておいてほしい。実際かなりの大音量でピーピー鳴り響いているとは思うのだが…。
これはリーグに対する要望である。

※タイトルをご覧になってゴリラの笑顔をイメージされた方には申し訳ない内容でした…愛すべき「あの人」の復帰記念エントリーは明日にでも書きたいと思っています

2008年07月12日付
現在の青赤指数=59(→)
■■■■■■■■■■10発狂
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20絶望
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30暗鬱
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40不安
■■■■■■■■■■50平常

■■■■■■■■■□60希望
□□□□□□□□□□70幸福
□□□□□□□□□□80歓喜
□□□□□□□□□□90熱狂
□□□□□□□□□□99絶頂

◎おちついてください、目黒さん。

「踊るか、踊らされるか。」
082_dance_tokyo

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