妄想人事(松木安太郎という選択肢)

パロマ瑞穂スタジアムのバックスタンドは、一部立ち見の観客が出るほどの盛況だった。それ相応の招待券がばら撒かれていたようだが、そのこと自体を否定するつもりはない。名古屋のキッズがグランパスの勝利に刺激され、家族・友人を巻き込むかたちで次回以降「有料入場者」になってくれたら、それで良し。蒸し暑さの残る秋の午後、ピッチ上には青いユニフォームを着た駒野友一と、赤いユニフォームを着たハ・デソンの姿があった。

日韓代表経験者である両者が、シーズン後半にこのような境遇に身を置こうとは誰が想像しただろうか。質量ともにそれなりの充実度と期待させられた新戦力の面々であったが、蓋を開けてみたらJ1のピッチに立ち続けるのは「不動のGK」秋元陽太だけという現実。監督交代などの事情あれど、成功か失敗かと問われたら間違いなく後者が解と断言できるだろう。補強戦略反省ダービーと密かに命名した一戦は、期待を裏切る内容となった。

ハ・デソンの先制ゴールを皮切りに、次々と失点を重ねたアビスパ福岡のJ2降格が決まった。試合開始から終了まで、濃度の低い時間が淡々と過ぎていったという印象だった。精根尽き果てピッチに沈んだまま身を起こせない。残念ながらそんな敗者の姿を見ることはできなかった。わが愛するFC東京は何故このチームに「ダブル」を献上してしまったのかと、頭を抱える思いでぼんやりとドラマに欠けるワンサイド・ゲームを眺めていた。

「瑞穂への散歩」に付き合ってくれた青赤仲間との反省会場はコメダ珈琲店となった。喜色満面の名古屋ファンに囲まれて、声量に気をつけながら語らうは当然の如く東京一色(青赤二色)。ひそひそと意見を交わすテーマは監督の人選について。リーグタイトルを狙う以上、その実績を有する監督を迎えることこそが、単純明快な近道ではないか。感心はできないが、チーム内に外国人監督へのアレルギーができているならそれも尊重しよう。

候補者は絞られてくる。森保一、長谷川健太。名前を挙げた直後に『まあ無理だわな』でファイルクローズ。やはり他クラブで采配を振る現役の監督を引き抜くことは現実的に考えられない。西野朗。日本サッカー協会の技術委員長に就任された現状、これも難しいか(名古屋のコメダで話すネタとしては不適当であり、ボリュームを最小に絞った瞬間だった)。鈴木政一、桑原隆というジュビロ磐田系列の両名は失礼ながら名前を思い出せず。

岡田武史。いいじゃない、かつて日刊スポーツが「岡田東京」と報じたこともあるし、クラブの公式グッズで今治ブランド認定商品のタオルマフラーが販売された経緯もある。土日だけでいいから東京に来てくれませんか?と招聘に乗り出すだけの伏線は十分に張られていると思うよ。僕の目が輝き、彼女の目が曇る。イヤだ、つまらないんだもん。守備的でつまらなくても、勝てば楽しいという真理をイタリア人から教わったばかりじゃない!

勝手気侭な意見交換は平行線をたどり、アイスコーヒーも残り少なくなってきた。Jリーグの歴史をさらに遡ることで他の該当者を模索することにした僕たちだったが、苦笑と共に議論を中断することになる。横浜マリノス・早野宏史、そしてヴェルディ川崎・松木安太郎。『なんてこったい』残されたカードが2枚ともジョーカーであることに気づいたからだ。雑な音を立てつつアイスコーヒーを飲みきって、僕たちはそそくさと席を立った。

瑞穂運動場東駅で別れた後、隣駅まで歩く。禁断の果実(?)とわかっていながらも、妄想を楽しんでしまう悪い癖。少なくとも今よりは明るくなるかな、少なくとも今よりは楽しくなるかな。栄光のJリーグ初代優勝監督、知名度と好感度は疑いようのないところだ。その笑顔でメディアを味方につけることは必至、ただし試合内容より記者会見のほうに衆目を集めそうな松木トーキョー。それでもいいさ、仮に敗れても痛みが和らぐのなら。

【Before】
「負けが受け入れられないような内容。選手はベストを尽くしたが、ゴールネットを1回も揺らせなかったのは事実。(失点場面以外に)ほかにピンチがあったかというと、よく分からない。いま、一番カメラが向くのは自分だと思うので、顔を上げてやりたい」

【After】
「いやぁ…受け入れられないね!まーったく受け入れられない。なんなんすかコレ?選手はベストを尽くしてましたよ、見てたでしょ?ボールを持ってガーンと行って、ドーンと決めようとしてたんだから。スーパーな中島のショウヤのアレね、キーパーいなかったら入ってましたよ!ゴールちょっとずらしたかったね、えっへっへ。え?ゴールネットは揺れたんだっけ?うおおおおおおおおぃ!そうかオフサイドだったね、どっちの?ああ、こっちの!いやいやいやいや、アレはオフサイド?オフサイドなの?オフサイドじゃないでしょー?オフサイドでしたかねー?オフサイドじゃなかったでしょー。もうふざけたオフサイドはいらないですよ。(失点場面以外に)ピンチ、あったかな?サッカーというのはだいたい試合の序盤と終盤、あと中盤が全体的にキツイ時間帯ですからね、それ以外の時間帯はよかったと思いますよ、ナイスでした。いま、一番カメラが向くのは自分だからね、いいよもっともっと撮って!顔を上げていくよー。この勢いで次節、ビシッと連勝狙いますから!え?今節負けた?どっちが?ああ、こっちが!うおおおおおおおおぃ!」

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