SAYONARA HIRAYAMA

船上のメリークリスマス。サンタ帽ではなくヘルメットをかぶって。天皇杯準々決勝が行われたその日を、僕は味の素スタジアムではなく、伊勢湾の「現場」で過ごした。業務を終えて帰宅したのは夜になってからだった。レコーダーに予約していた試合中継が録画できていることを確認してから、服を着替えた。スーツを脱いで、半袖のトレーニングシャツと自転車用のショートタイツを着る。補給用の水をセットしてテレビの電源を入れた。

カーテンレールに青赤のユニフォームを掛けて、リビングの片隅に置いたスピンバイクに跨がる。トライアスロンのシーズンオフ、さらには忘年会シーズンに突入したことでサボリ癖がついていた。すっかり弛緩してしまった心身に喝を入れるべく、試合終了までバイクをこぎながら「一緒に戦う」ことにした。暮れの大一番、負けたら終わりのトーナメント戦。温々とした格好でソファーに座ってビールを飲む気分にはなれなかったのである。

一部メディアで先発出場と報じられた平山相太は、残念ながらベンチスタートだった。既にチームを離れることが発表されていた「天皇杯男」林容平も見たかったが、やはりソウタに対する思い入れは格別なものがあった。抜群の知名度と渦巻く賛否両論。もっとやれるだろう、もっとやれたはずだろう。彼に向けられた声は、そのままFC東京への評価と重なるように思えたものだった。理想と現実の狭間で、クラブもソウタももがき続けた。

川崎に圧倒される東京、悲しくも積み重ねてきたもの(または積み重ねた後に壊してしまったもの)の差はかくも大きくなってしまった。多摩川どころか、黄河が如き隔たりの向こうにフロンターレがいる。点差以上の格差を見せつけられ、そして画面越しに聞こえる声援が川崎に向けられたものばかりという悲しい状況に、ペダルを踏む足は加速度的に重くなっていった。身体が冷えるのはじわり滲み出した汗のせいか、それとも他の理由か。

聖夜のサンタならぬソウタクロース。最後のプレゼントが届いたのは、後半アディショナルタイムに入ってからだった。奇しくも平山相太が東京で生み出した最大の地鳴り、あの日のゴールと同じ対戦相手に同じく頭で決めたゴールだった。しかし悲しいかな、ディレイ観戦の弊害。録画時間から僕はこの試合が延長戦には突入しないことを悟っていた。あの日、国立競技場で全身を貫いた言葉で表現できない感情が沸き起こることはなかった。

それでも。窓際に掛けたHIRAYAMAユニフォームを見つめ、希望を捨てずペダルを踏み続けた。残り数分で2点取ればいいのだ。そんな奇跡が実現する確率が、たとえ天文学的な数値であっても。数万年に一度、太陽を軸とした複数の公転軌道が重なる惑星連結の奇跡。銀河の神秘に思いを馳せる。遥か彼方のその惑星では、水と空気と生命体が存在するだけでなく、怪物と呼ばれる男がピッチを完全に制圧し、人々を熱狂の渦に巻き込んでいた。

【第96回天皇杯準々決勝】 FC東京(1-2)川崎フロンターレ

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